証券取引所に上場して株が売買できるようになっている企業を「上場企業」といいます。中でも審査が厳しい東証プライム市場(旧・東証一部)に上場している企業は、社会的な信頼の証というイメージを持つ方も多いでしょう。広く名前が知られている大企業は、上場企業であることが一般的です。

しかしその一方で、非常に有名な企業でありながら、実は上場していない(未上場である)という会社も意外と多く存在します。

【メモ:東証の市場区分再編について】
なお、2022年4月の東京証券取引所の市場再編により、従来の「東証一部」は「プライム市場」に、「東証二部」と「JASDAQ」は「スタンダード市場」に、「マザーズ」は「グロース市場」へとそれぞれ再編されています。

実は上場していない有名企業

まずは、良く名前は知られているのに、上場していない企業を紹介します。なお、企業自体は有名で未上場であっても、親会社が上場しているようなケースは除外しています。

たとえば、カルピス株式会社は未上場ですが、100%親会社のアサヒ飲料があり、持ち株会社のアサヒグループホールディングスは上場しています。今回はこうしたケースは含めず、上場企業グループの傘下ではない独自の未上場企業をピックアップしました。

  • サントリー
  • 竹中工務店
  • JTB
  • JCB
  • ミツカン
  • YKK
  • ロッテ
  • ヤンマー
  • 国分グループ本社
  • 朝日新聞・読売新聞などの新聞社
  • 日本生命・明治安田生命など生命保険会社

サントリー(サントリーホールディングス)

日本を代表する飲料・酒類メーカーですが、本体であるサントリーホールディングスは未上場です。株式の約9割は創業家の資産管理会社である寿不動産が所有しています。子会社のサントリー食品インターナショナルは上場していますが、同社の約6割の株もサントリーホールディングスが保有し、強固な経営基盤を維持しています。

竹中工務店

スーパーゼネコンと呼ばれる大手建設会社の一角ですが、大手5社の中では唯一の非上場企業です。創業は江戸時代にまでさかのぼることができ、社名にもある通り、創業一族の竹中家による経営が現在も続いています。主要株主も創業家のグループ企業となっています。

JTB(日本旅行)

大学生の就職人気ランキングでも常連の旅行代理店最大手、JTBも未上場です。もともとは公益財団法人日本交通公社の営業部門を分離し、株式会社日本交通公社として創業・民営化された背景を持ちます。現在の主要株主は、公益財団法人日本交通公社をはじめ、東日本旅客鉄道(JR東日本)、東海旅客鉄道(JR東海)、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行など、多数の有力企業が名を連ねています。

JCB

日本発の国際クレジットカードブランドを展開するJCBも未上場企業です。1961年に三和銀行(現在の三菱UFJ銀行の前身の一つ)と日本信販によって設立されました。現在の主要株主は三菱UFJ銀行や三井住友銀行、太陽生命保険などで、従業員持ち株会の保有比率も多くなっています。2008年に米国カード会社のVISAが上場した際、JCBも上場するのではという思惑が市場で囁かれましたが、現在も未上場を貫いています。

ミツカン(Mizkan Holdings)

調味料やお酢で有名なミツカンも、代表的な未上場企業として知られています。1804年に酒造業として創業されて以来、中埜家が代々事業を継承し、堅実な経営を行っています。

YKK

ファスナーで世界最大手のシェアを誇るYKKも、非上場企業です。技術力の流出を防ぎ、長期的な視点での研究開発や設備投資を行うため、あえて上場しないという独自の経営方針を貫いています。

ロッテ

菓子メーカーおよび流通業として巨大なグループを形成しているロッテも、本体(日本のロッテホールディングス)は非上場となっています。

ヤンマー

農業機械や船舶用エンジンなどの製造で世界的に知られるヤンマーも、未上場のグローバル企業です。

国分グループ本社

食品卸売業の最大手である国分グループ本社も、江戸時代から続く非上場の老舗企業です。

朝日新聞・読売新聞などの新聞社

日刊新聞社は、法律による規制(日刊新聞紙法など)により株式の譲渡が制限されており、特定の資本による言論の支配を防ぐ目的から、制度上上場することができません。

日本生命・明治安田生命など生命保険会社

多くの生命保険会社は株式会社ではなく「相互会社」という企業形態をとっています。これは保険の契約者同士が相互扶助を行うための組織構造であり、株式会社ではないため上場していません(上場できません)。一方で、第一生命のように相互会社から株式会社へと組織変更(株式会社化)を行い、上場を果たした保険会社も存在します。

なぜ上場しないのか?上場のメリットとデメリット

日刊新聞社や相互会社のように、そもそも制度上上場できないケースを除けば、基本的には「上場する必要性がないから」というのが最大の理由になります。上場することで得られるメリットと、それに伴うデメリットを天秤にかけたとき、デメリットのほうが大きいと経営陣が判断していると考えられます。

上場のメリット

上場の主なメリット
  • 会社の信用力や知名度が大きく上昇する
  • 株式市場からの資金調達が容易になる(公募増資など)
  • 創業者利得が得られる(創業者が保有株を売却して利益を得る)

通常、企業はこれらの事業拡大の恩恵を受けるために上場を目指します。しかし、今回紹介したような未上場企業は、すでに日本中、あるいは世界中で抜群の知名度と確固たる事業基盤を持っています。そのため、知名度向上や資金調達を目的として上場する必要性が薄いと言えます。また、創業一族がすでに巨大な資産を築いている場合、さらなる創業者利得を求めるインセンティブも小さくなります。

上場のデメリットと未上場を貫く理由

上場の主なデメリット
  • 株主への対応や情報開示の手間・コストが増大する
  • 株主から短期的な利益や成果を求められるようになる
  • 経営者や創業一族の経営への影響力・支配力が低下する

企業が上場(公開企業化)すると、非上場時よりもはるかに厳格な情報開示(ディスクロージャー)が義務付けられます。さらに、株主に対する配当金の支払いや株主総会の運営など、対応コストも膨大になります。

そして、最も大きなデメリットとして挙げられるのが、「短期的な成果の追求」と「長期的な経営戦略」とのジレンマです。株式市場には、四半期ごとの業績向上や目先の配当を強く求める投資家も多く存在します。

たとえばサントリーの場合、ウイスキーの製造・熟成には10年から数十年という非常に長い年月とコストがかかります。もし上場していれば、短期的な利益を求める株主から「利益を生むまで時間のかかる事業への投資を減らすべきだ」と圧力を受けかねません。非上場を維持することで、外部の意見に左右されず、創業家の理念に基づいた独自の長期的な事業投資を継続できるのです。これはYKKや竹中工務店など、独自の技術や職人技を育てる企業にも共通する理由です。

上場してなさそうで実は上場している会社

ここまで「上場していそうなのに、実はしていない会社」を紹介してきましたが、その逆のケースも存在します。

驚かれる方も多いのですが、日本の中央銀行である日本銀行(日銀)は、実は上場しており、一般の投資家でも出資証券(一般的な株式に相当するもの)を売買することが可能です。

【メモ:日本銀行の上場市場】
日本銀行の出資証券は、かつてはJASDAQ市場に上場していましたが、2022年4月の市場再編以降は、東京証券取引所(スタンダード市場に準じる扱い)で取引されています。銘柄コードは「8301」です。

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ただし、日銀の出資証券を保有していても株主総会における議決権はなく、配当金も法定の極めて低い水準に制限されています。そのため、投資対象として大きな利益を狙うというよりは、一種の記念や趣味としての意味合いで保有されることがほとんどです。

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高山一郎
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