株式投資

キャッシュフロー計算書の読み方

財務諸表の読み方シリーズのラストは「キャッシュフロー計算書」です。「貸借対照表」「損益計算書」と並んで、この3つで財務三表とも呼ばれます。中でもキャッシュフロー計算書は比較的近年になってから注目されており、上場企業に対して作成が義務付けられたのは2000年になってからです。キャッシュフロー計算書を読み解くことで、損益計算書からでは読み解くことができない「資金繰りの状況」を詳しく知ることができます。

財務諸表に関するまとめは「企業の財務諸表の種類と読み方」をご覧ください。

 キャッシュフロー計算書の意義

キャッシュフロー計算書は会社の資金繰りを知るための財務諸表の一つです。
でも、損益計算書でざっくりとした流れはわかるんじゃないか?と思う方も多いかと思います。

損益計算書には「期間利益を適正に図る」という目的があります。たとえば、工場用の機械を1億円の現金で購入したとします。
この機械は以後10年にわたって利益を生み出してくれるとします。その場合、期間利益を適正に計算するのであれば、この機械の購入代金を1年で費用として計上するのはおかしいですよね?

事実損益計算書では、耐用年数(減価償却費)という概念を使い、この1億円の機械を費用化するとき10年にわたって毎年1000万円ずつ費用として計上するようにします(細かいところは違いますが)。

でも、資金繰りという面から考えると1億円の機械を現金で買ったわけですから、キャッシュフロー上は1億円の支出(キャッシュアウト)ということになります。

これ以外にも、会計上、損益計算書では「費用」なのに「現金の支出がない項目」損益計算書状では「利益」なのに「現金の入りがない項目」などが多数あります。

キャッシュフロー計算書はこのような損益計算書の問題点を解決するための財務諸表です。
黒字倒産」という言葉を聞いたことがないでしょうか?これは決算上は黒字なのに資金繰りがうまくいかずに支払いができなくなることをさします。このようなリスクもキャッシュフロー計算書があれば読み解くことができるのです。

 

営業・投資・財務、3つのキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書は大きく「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の3種類があります。
細かい数字を追わなくても、これらのキャッシュフローが黒字か赤字かだけをみるだけでもその会社の資金繰り状況を知ることができます。

営業キャッシュフロー

本業における現金の入りと支出を示します。営業キャッシュフローは本業によって手元現金がいくら増えたのかを示す指標となります。基本的に「プラス」であるのが望ましい指標です。なぜなら、営業キャッシュフローがマイナスというのは「本業を継続することで損失が出る赤字体質の会社」ということになるからです。

営業キャッシュフローがマイナスという会社は事業的にかなりリスキーな状況にあるとみてよいでしょう。

 

投資キャッシュフロー

投資キャッシュフローは工場や設備、建物や有価証券(株や債券など)、その他固定資産を取得したり、売却した際の入出金を示します。
設備投資する場合はマイナスとなるので、投資キャッシュフローがマイナスだからといって問題があるわけではありません。逆に成長著しい会社などは設備投資も積極的に行うので投資キャッシュフローが経常的にマイナスということも良くあります。

逆に、常に投資キャッシュフローがプラスという会社は会社の財産(固定資産)を切り売りして、資金繰りに回しているのか、よほど財テクが上手な会社ということになりますね。

 

財務キャッシュフロー

財務キャッシュフローは、銀行からの借り入れや社債の発行などによる「資金調達(プラス)と、銀行への借り入れの返済や株主への配当等による「支払い(マイナス)」のキャッシュフローを示します。

財務キャッシュフローは株主への配当を行うことでマイナスとなりますので、マイナスだからといって心配する必要はありません。逆に、プラスであっても成長している会社は銀行などから積極的に融資を受けてその資金で投資に回すケースも考えられるので問題ないといえるでしょう。

 

各キャッシュフローの組み合わせが重要

営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローは単品で判断するのではなく、それぞれの組み合わせをみることが重要です。
これらがどんな組み合わせ状況なのかによってその会社がおかれている資金繰りが見えてきます。なお、以下ではキャッシュフローをCFと表記します。

営業CF+、投資CF-、財務CF+ (積極的優良企業)

本業が儲かっており、さらに融資や起債によって資金調達も行っている状況です。この状況で投資も行っているので、かなり積極的に動いている会社といえるでしょう。すでに利益基盤を得た成長企業といった感じでしょうか。
具体的な投資CFの額にも注目ですね。

 

営業CF+、投資CF-、財務CF- (財務安定化優良企業)

本業が儲かっており、その資金を使って投資と借金の返済を同時に行っている会社です。投資はしているが、財務の健全化にも取り組んでいる感じですね。安定感があります。
営業CFがどのくらいの額出ているのかも合わせてチェックしましょう。

 

営業CF+、投資CF+、財務CF- (リストラ成熟型企業)

本業自体は利益が出ているものの、設備等の整理を行っており、借金の返済や株主配当へ充てている会社といえます。成熟した会社である一方で、リストラを実施中の会社ともいえるかもしれません。営業CFがプラスなので状況は分かりませんが、警戒感は必要でしょう。
財務CFのマイナス額の大きさが大きいほど微妙に警戒したいところです。

 

営業CF-、投資CF-、財務CF+ (赤字ベンチャー or 再建中)

まだ本業では利益が状況なく、投資を行っているベンチャー企業に多くみられるタイプです。もしくは経営再建中の赤字企業でもこのパターンは多いですね。なんとか資金調達を行っている状況です。営業CFのマイナス幅が重要でしょうか。

 

営業CF-、投資CF+、財務CF- (なんとなく終わった感)

本業では利益が出ておらず、資産は売却中、さらに銀行へと借金の返済を進めている状況ですね。普通に考えるとかなりの縮小均衡を目指している会社といえそうです。

 

上記の組み合わせはあくまでも一例ではありますが、キャッシュフロー計算書の全体像をつかんでいただくのには有効ではないかと思います。難しく考えずに、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローがそれぞれプラスかマイナスかの組み合わせで会社を比較してみると意外な面が見えてくることも多くて楽しいですよ。

ちなみに、それぞれのキャッシュフローは会社四季報でも確認できます。

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高山一郎
高山一郎です。株や投資に関する情報発信を始めて10年以上、投資歴は15年以上です。実際の経験に基づく役立つ投資やお金に関する情報を発信していきます。