株式投資や債券投資、投資信託投資など様々な投資において、その投資の成果を把握するための基準となるのが「利回り」という概念です。投資にたしいて1年間あたりに得られる収益の割合が利回りになるわけですが、この「利回り」という言葉、正確に理解しておかないと怪しい広告文などに引っかかってしまうことがあります。今回はこの「利回り」の概念、正しい捉え方を考えていきましょう。
まず、利回りという言葉の意味ですが、投資における「金利」に相当する概念です。基本的には投資した元本に対して得られた益金を1年当たりの利率に換算したものなのです。
しかしながら、「単利と複利」「収益の源泉(インカムゲインとキャピタルゲイン)」「リスクの大小」「レバレッジの有無」などによって実はとらえ方が変わってきます。
金融商品や投資商品などのパンフレットやセールストークの中などでは「○%」という金利・利回り表現が使われることも多いかと思います。そうしたとき、その表現は本当に正しいのか、比較対象は間違っていないかを確かめるための知識が必要です。
まずは、それぞれを一つずつ見ていきましょう。
単利と複利は区別する
たとえば、下記のような債券があったとします。税金は考慮しないものとします。
10年満期割引債。年率8%(単利)と書かれているものがあったとします。
また別に、再投資型の投資信託があり、こちらは年率7%で運用されるとします。
ともに、リスクは同一であるとします。単純に金利だけの違いでみた場合、どちらの方が優れた運用商品でしょうか?
年利8%の割引債の収益
年率8%の単利ということは購入元本に対して180%の価格で償還されることになりますね。仮に100万円投資をしたら10年で180万円になって戻ってくるということになります。
年利7%の再投資型投資信託の収益
一方の投資信託の場合、年利7%で運用されますが、年間の運用成果は再投資されるので複利運用となります。仮に同投資信託に債券の場合と同じ、100万円の投資をした場合、10年後には1,967,151円という運用成果となります。
表面上の利回りが低いはずの投資信託の方が、利率が高いはずの割引債よりもリターンが大きくなりました。これは前者が「単利」、後者が「複利」で運用されるためです。
(参考:「複利の力を活用(資産運用と複利効果)」
再投資型の投資信託の場合、毎年得られる7%の収益が、翌年乗っかる形となり、利益が利益が乗っていく形になるわけです。1年後には100万円の7%である7万円の分配金が支払われますが、2年目はこの7万円も投資元本に加わります。結果2年目は107万円の7%である、7.49万円が利息になります。さらにその翌年ごは114.49万円に7%が加わり……と利息に利息が付く状態となります。
複利計算いついては下記の式により求めることができます
最終収益額=投資額×(1+r)n
r ・・・利率(今回は0.07)
n ・・・運用年数(今回は10)
1000000円×(1+0.07)10=1,967,151円
なお、この例題が「割引債」ではなく「利付債」の場合は話は別です。割引債は性質上満期まで金銭の給付がありませんので、単利計算しかできませんが、利付債の場合は毎年(半年に2回)得られる利息(クーポン)は現金で給付されますので、そのクーポンを再投資することは可能です(再投資の可否は別として)。
ここでいいたいことは「見た目の金利だけにとらわれてはいけない」ということです。
基本的に投資家という立場から考えると利回りを計算する場合は複利を運用ベースに考えるべきだと思います。もし単利での運用しかできないような商品(満期時にならないと利息や収益が受け取れないような商品)で「利回り○%」みたいな表現がある場合は、複利ベースに換算して計算をし直す必要があります。
収益の源泉(インカムゲインとキャピタルゲイン)
投資信託などの営業で見られるのが、基準価額1万円の投資信託で月100円の分配金を出す投資信託があります。利回りは年12%ですよ!といったセールストーク。
たしかに、計算をすればその通りなのですが、これだけでは誤解を招きます。
仮に上記のような投資信託あったとします。しかし、1年後には基準価額が9000円にまで下落していたとします。
その場合、インカムゲインである1200円に、キャピタルロスである-1000円を加えてみると、収益はたったの200円にまで落ち込みます。利回りは2%にまで低下します。
いやいや、この場合のキャピタルロスは未実現の損失だから元に戻るまで持っておくのであれば問題ないという主張も聞きますが、未実現として含み損が発生しているのであれば、その価格を基準に以後のリスクを考えるべきです。
基本的に投資商品の評価を行う際は「インカムゲイン(利息・配当など)」と「キャピタルゲイン(譲渡益・売却益)」とを加えた上で評価するべきです。
特に、銀行や証券会社などで多数販売されている毎月分配型の投資信託のような商品は実質上元本の払い戻しを行っているにすぎないようなものも多数見られます(上記で出した例のように分配金は出ているが基準価額が値下がりしている投資信託)。
投資家はこのように、インカムゲインとキャピタルゲイン(キャピタルロス)を総合的にとらえた上で投資商品を評価しなければなりません。
リスクの大きさが異なる商品の利回り
金融商品の多くはそれぞれでリスクが異なります。
たとえば、日本国債の利回りが0.8%、一方で豪ドルの債券の利回りが4%だとします。
直接比較すれば当然豪ドルの債券の方が利回りが高く魅力的にうつります。しかしながら、豪ドル債に対して投資をする場合は、「為替リスク」といったリスクが生じているわけです。
単に、利回りが高いから、そちらの方が投資的に価値が高い商品というのとは別次元のお話です。
前述の「日本国債 利回りが0.8%」と「豪ドルの債券 利回りが4%」を比較する場合はリスクに対する評価基準を設けなければどちらが良い投資なのかは決まりません。
レバレッジの有無
リスクの大小とも絡むわけですが、不動産投資系の広告に多いのが「実質利回り30%」といったような表現です。
仮に、100万円の元本で残り900万円をローン(年利5%)で物件に投資、年に70万円の収益が期待できる場合を考えてみましょう。
まず、ローンの支払いで年に40万円のコストがかかります。これを収益から控除すると30万円の収益が残ることになります。
投資をした元本は100万円で年30万円の収益ですから確かに利回りは30%なのですが、この利回りはれバッジ効果によって生み出されているわけです。(参考:レバレッジと投資)
仮に、全額をキャッシュで投資をした場合は7%(70万円÷1000万円)に過ぎない投資リターンを借入を利用することによって高めているわけです。
レバレッジは、投資をより効率的に行う上では有効な手段ですが、同時にリスクも高まります。
たとえば、ローン金利の上昇リスク、返済期間中に入居者がいなくなる空室リスクなどは、ローンを使って不動産投資をした場合の方がはるかにリスクは高くなります。
FX(外国為替証拠金取引)などでも同じですね。レバレッジ20倍で豪ドルに投資するとします。
豪ドルのスワップポイント(金利差の交換。FXでいう金利)が対円で年4%だと仮定した場合、レバレッジ20倍で運用すれば実質利回りは80%ということになります。
(参考:スワップとは)
100万円を豪ドルに投資すれば1年で80万円のスワップ(利息)を受け取れるわけです。こりゃあいいね!と思われるかもしれませんが、レバレッジ20倍で豪ドルに投資をしているということは、豪ドルの為替リスクを通常20倍取っていることになるわけです。仮に、豪ドルの為替レートが5%円高方向に動いただけで、投資元本の全部が無くなってしまうわけです。
世の中には、様々な金融商品があり、利回りをつかった訴求が行われています。投資家としては正しい目を持って、投資商品の評価を行う必要があります。
そのためにも、「利回り」を使った数字のトリックに騙されないようにしっかりと利回りの概念についての理解を深めておきましょう。