最近、一部のネット証券で「貸株サービス」というサービスが提供されています。貸株サービスとは、投資家が保有する株式を、取引している証券会社に「貸す(レンタルする)」ことによりその対価として貸株料を受け取ることができるサービスです。投資家にとってはメリットが大きなシステムに見える貸株サービス。今回はこの貸株サービスのメリットとリスクを検証していきます。
基本的にはメリットの大きいサービスなので活用するべきだと私は思っていますが、全くのノーリスクというわけではないので多少注意を払う必要があります。
貸株サービスとは何か?
貸株サービスというのは、投資家が保有する株式を証券会社に貸すことで、貸株料を投資家が受け取ることができるサービスです。こうした取引自体は、何も新しいものではなく、機関投資家と証券会社(証券金融会社)との間では普通に行われている取引です。
信用取引において空売りをする場合に投資家が借りて売っている株も貸株によって調達されたものなのです。
ただ、こうした貸株市場(ストックレンディングとも)については規模を持たない個人投資家には手間の問題から提供されていませんでした。
一方でネット証券が台頭しており、ネット証券であれば小口の投資家でもシステム化することで手間をかけずに貸し株サービス(ストックレンディング)が可能になったわけです。2016年現在はおもにネット証券の中でも口座数や規模の大きい大手ネット証券が中心にサービスを提供しています。
貸株サービスのしくみ
貸株サービスの詳細についてはそれぞれの証券会社で異なるわけですが、概要は同じです。
投資家が保有する株式を証券会社が借ります。そして、借りた証券会社はその株式を貸株市場を通じて機関投資家等に貸し出すという仕組みになります。
なお、具体的に証券会社に株を貸すことでもらえる貸株料については、証券会社や貸す株式によって差はあるものの0.1%~20%程度となっているようです(2016年6月現在)。
かなり幅が広い設定になっていますが、貸株による株式は信用取引などで利用されます。そのため、貸し株需要の大きな銘柄(売り長銘柄・逆日歩発生銘柄)などには高い貸し株料が設定されています。
0.1%という水準ですが、2016年にはマイナス金利政策が実行されたことなどに伴って定期預金などの金利はほとんど期待できない水準になっています。そんな中で最低0.1%分の金利収入が入るというのは決して悪いことではないと思います。
たとえば、こんな方に向いているサービスでしょう。
- 株式は中長期保有が前提という方。優待狙い・配当狙いの投資家。
- 塩漬け状態になっている株式がある投資家。
これまでと同じように株を預けているだけで、貸株料がもらえるという意味ではかなり有利なシステムだと思います。もちろん、貸株しているから売却できないということはなく、いつでも売却することができるというのも魅力です。
貸株サービスのリスク
魅力的な貸株サービスですが、「リスク」や「デメリット」は無いのでしょうか?大きく「名義書き換えに伴うデメリット」「信用取引の担保問題」「貸株先の証券会社の信用リスク」という3点が挙げられます。
名義書き換えに伴う長期株主優待サービスが受けられない可能性
まず、貸株中は名義が自分のものではなくなるということがデメリットとして挙げられます。
配当金や株主優待の受け取りについては、「その期間だけ返してもらう」という設定が可能ですので権利取りという面では問題ありません。普通に受け取ることができます。ですから、この点は問題ありません。
しかしながら、一部の企業が実施ている「長期保有投資家に対する優遇」があるような銘柄については注意が必要です。たとえば、優待銘柄として人気の「モロゾフ」では、3年以上の長期投資をしている投資家に対してプレゼントを行っています。他にも「ビックカメラ」などでも、同様の制度があります。
この貸し株サービスを利用することで連続性が途切れたと判断されるかされないかは企業側の判断となりますので、どうなるかはわかりません。
ただ、貸株サービスは銘柄を選んで貸株に出すこともできますので、たとえば、こうした銘柄は貸株の対象から外しておけば問題ないでしょう。
信用取引の担保問題
信用取引をする場合、株式を「代用有価証券」として担保に入れることができますが、貸株サービスを利用している株式は信用取引の担保とすることができません。
そのため、一部の貸し株サービスでは信用取引の利用との併用ができないという設定になっているところもありますのでご注意ください。
また、貸し株中の株式は信用取引の担保とはできませんのでご注意ください。
貸株先の証券会社の信用リスク
個人的には貸株サービスを利用する上で一番のリスクと考えているのがこの「信用リスク」です。信用リスクというのは、相手の会社が倒産・破たんするリスクです。通常、証券会社に預けている投資家の資産は「分別管理」という手段によって証券会社の資産と切り離されて管理されているので万が一証券会社が破たんした場合であっても投資家資産は保護されています。
(参考:証券会社が倒産したら預けている株や投資信託はどうなる?)
しかしながら、貸株をした場合、名義上が証券会社の物になってしまうことから分別管理の対象から外れてしまいます。そのため、貸株をしている状態で証券会社が破たんしたような場合は、貸し株している株式が毀損してしまうリスクがあります。
そのため、貸株サービスを利用する場合は、その証券会社自身の健全性についても十分に配慮する必要があるといえます。
なお、その材料として活用できるものが「信用格付け」でしょう。信用格付けは長期の信用力を評価したものです。
参考:債券投資と信用格付
税金上の問題
貸株サービスでは、名義が変更される問題で企業から払われる配当金が直接ではなく、証券会社を経由した「配当金相当額」として支払われることがあります。この場合、配当金相当額は配当所得ではなく、雑所得として扱われることになります。
これによって配当控除や株式譲渡損失との損益通算ができない問題や雑所得としての二重課税となるリスクがあります。詳しくは「貸株サービスの配当金相当額には二重課税問題と損益通算問題があるのでご注意」でもまとめました。
ネット証券各社の貸株サービス比較
上記を踏まえた上で、ネット証券各社が提供している貸株サービスを比較していきましょう。
1位:auカブコム証券
大手金融グループ(MUFG)のネット証券。信用格付けは2016年6月現在でA+格と高い。0.1~最大20%の貸し株金利が適用されます。信用取引口座との併用も可能です。貸し株のリスクを気にする方はauカブコム証券が一番お勧めです。
2位:SBI証券
金利等の貸し株による収益面を考えるのであればもっとも収益機会が高そうなのがSBI証券です。0.1%、0.4%、0.5%という3段階の月1回で見直される貸株金利と、随時金利が見直される1%~20%程度のプレミアム金利が設定された銘柄があります。
信用取引口座との併用も可能です。信用格付けはBBB+。
3位:マネックス証券
金利設定は0.1%か0.5%かの二段階です。上記のauカブコム証券、SBI証券とくらべると貸し株金利面がやや弱いといえます。その代わり0.5%が適用されている銘柄数は多い印象です。高額の貸し株金利が付きやすいのは新興市場の株であることが多いので、どちらかといえば、東証一部の大型株しか買わないという人にはいいかもしれません。
また、貸し株サービスを提供する証券会社の中では唯一、配当金の自動取得サービスも行っています。これによって貸株サービスによる税問題は解決できます。
信用口座との併用は不可。信用格付けはBBBです。
最初の方にも書きました全体としては、非常にお勧めのサービスです。上手に活用してください。
以上、ネット証券の貸株サービスのメリットとリスクを紹介しました。