増資の発表。投資家にとっては頭の痛い発表となることが多いです。良い公募増資というのを目にすることは多くはありません。多くの場合、公募増資が発表されると株価は下がることになります。今回は公募増資の発表でなぜ株価が落ち込んでしまうのか?その理由を解説していきます。
ちなみに、増資で必ずしも株価が下がるというわけではありません。株価に対して下落圧力が加わり易いと言うだけです。増資の理由やその企業の置かれている状況によってはプラスに働くこともあります。
増資による株式の希薄化としくみ
増資で株価が下がる理由は「株式の希薄化」が原因です。
では、その希薄化とは一体どのようなものなのでしょうか?希薄化というのは文字通り薄くなるという意味です。
投資家にとって企業の価値というのは、どれだけ収益を上げることができるのか?ということになるわけです。たとえば、年間に100億円の純利益をあげる会社があるとします。この利益は不変と仮定します。
この会社は100万株の株式を発行しているとします。すると、1株あたりの利益(EPS)は
100億円÷100万株=1万円
と計算されます。つまり、1株に対してこの企業は1万円の利益を上げている計算になるわけです。
先日エントリーした「PER(株価収益率)」をベースに考えましょう。仮にPERが15倍で評価されているとしたらこの会社の株価は1万円(EPS)×15倍=15万円という水準が適正な株価ということになります。
さて、上記の条件で「増資」が実施されることになったとします。増資によって発行済み株式総数の20%にあたる20万株の株式が新しく発行されたとします。
この場合、発行済み株式総数は、既に発行されている100万株に20万株を加えて120万株になります。すると、EPSは
100億円÷120万株=8334円
となります。分子となる株数が増えたことにより、1株利益は小さくなります。これが「希薄化」と呼ばれるものです。
PERが15倍という場合、株価も同じように、8334円(EPS)×15倍=125010円という評価になります。
増資前 | 増資後 | |
純利益 | 100億円 | 100億円 |
発行済み株式総数 | 100万株 | 120万株 |
1株利益(EPS) | 1万円 | 8334円 |
PER15倍時の株価 | 150,000円 | 125,010円 |
このように、増資で株数が増えることにより1株あたりの利益が小さくなり、結果として株価が下がってしまうわけです。
増資は悪なのか?
それでは、増資によって企業が資金調達を行うことというのは既存投資家にとって「悪」なのでしょうか?
増資が投資家にとって悪か善かの判断については、増資を行うことによって将来のEPS(1株利益)がどう変化するかが重要だと考えられます。
先ほどの例では「純利益は不変」としています。そのため増資によって希薄化が発生しEPSが低下しました。しかしながら、増資によって純利益が増大するとした場合はどうでしょうか?
増資によって新たな設備投資を行い、収益率が希薄化前後で希薄化した以上の利益となれば、問題ないわけです。例では20%の希薄化を行ったわけですが、増資によって純利益が仮に30%増大した場合
EPS=(100億円×1.3)÷(100万株+20万株)=10833円
となり、増資前よりもEPSは増大することになります。このように計画されている増資は悪ではなく、投資家にとっても好ましい増資と評価することができるでしょう。
逆に、EPSの上昇をもたらさないような増資というのは基本的に「悪い増資」と評価できるわけです。
増資の種類と特徴
ここからは、増資についての基本情報です。増資のやり方には大きく下記の二つの方法があります。
・公募増資
広く一般の投資家から資金を集めるために増資をする方法。証券会社を通じて新株の発行が行われます。投資家は証券会社を通じて株を買うことができます。
・第三者割当増資
特定の第三者に対して新株を発行することで増資を行うものです。一般投資家は購入できません。この方式がとられる理由は単なる資金調達という意味だけでなく、企業間のつながりを強化するために行われる場合もあります。提携や子会社化など。
参考ページ:増資と株価
増資ではなく、売り出しはどうなのか?
増資(公募増資)と同じように証券会社で募集されるものに「売り出し」というものがあります。
これは大株主が市場で株価を売却せずに、証券会社に売却を依頼して市場に保有株を流す時に使われます。売り出しについては既に発行されている株式ですのでEPSの悪化はもたらしません。
固定株が浮動株になるだけです。銘柄によっては浮動株として市場に株式が流通するようになることで流動性が向上することになり高評価されることもあります。