投資信託

通貨選択型投資信託の抱えるリスクと問題点

tukasentaku最近の投資信託に増えているのが「通貨選択型」というファンドです。投資対象の通貨とは異なる通貨を選択することができ、為替ヘッジプレミアムを得ようというタイプのものが多数です。

たとえば、米ドルやユーロ建ての運用商品に投資をする投資信託である一方で、豪ドルやトルコリラ、ブラジルレアルなどのいわゆる「高金利通貨」で運用するというのが一般的な無いようです。今回はこの通貨選択型投資信託(ファンド)の特徴やリスク、問題点などを紹介していきます。

通貨選択型ファンドの仕組み

通貨選択型ファンドという投資信託は投資対象によるリターンだけでなく、当該国通貨と高金利通貨との間での為替ヘッジプレミアムによるリターンという2つの収益源を狙うというタイプの投資信託です。

たとえば、米ドル建ての債券への投資をおこなうファンドがあるとします。
この場合、この債券から得られるリターンが一つ目の収益源となります。仮に年3%のリターンがあるとしましょう。

そして二つ目は「米ドル」と「選択した通貨」との間での為替予約(為替ヘッジ)によるプレミアムを収益源とするのです。為替取引においては「為替予約」という仕組みがあります。これは一定期間後の為替取引のレートをいま予約しておくという仕組みです。

為替ヘッジにおけるプレミアム・コストとは何か?

たとえば、1ドルは今100円だとします。
ただし、為替レートというのは日々変動しています。ただ、変動があるというのはリスクとなります。そのリスクを回避するための手段として行われるのが「為替予約」という仕組みです。

1年後の為替レートを現在のレートと同じ金額でするということを「あらかじめ取り決めておく」という取引となります。こうすることで、今後為替レートが有利な方向、不利な方向に動いたとしても、現在のレートで1年後の取引ができるようになります。

為替ヘッジというのは「為替レートの変動によるリスクをなくす」という仕組みなのです。ただし、このとき「金利差」というものを考える必要があります。

たとえば、円の金利が1%、米ドルの金利が3%だとしましょう。この場合、今が1ドル100円だとして、1年後に1ドル100円で取引をするという為替予約をした場合、金利差分の不公平が生じることになります。

たとえば、Aさんは100万円所持、1年後に1ドル100円でドルを購入する為替予約をしており、Bさんは1万ドル所持、1年後1ドル100円で米ドルを購入する為替予約をしているとしましょう。

この場合、1年間円(年利1%)で運用することになるAさんの1年後の資産は101万円ですが、Bさんはドル(年利3%)で運用することができるわけですのでBさんの資産は103万円(円評価)となります。

これでは不公平です。というよりも、自国の通貨よりも金利が高い通貨を保有しておき、自国通貨に現在のレートで為替予約をしておけば金利差分の利益が必ず得られることになります(逆は必ず損をする取引となる)。

そのため、この不公平を埋めるためのものが「為替ヘッジプレミアム」と「為替ヘッジコスト」です。通貨間の為替予約を行う場合にはそれぞれの通貨間の金利差をやり取りする形になります。

先ほどの円と米ドルのケースでは金利差の2%がそれに相当することになります。低金利通貨を売り高金利通貨を買うの為替予約をした人は金利差相当の為替ヘッジプレミアムを受け取り、逆に高金利通貨を売って低金利通貨を買う為替予約をした人は金利差相当を為替ヘッジコストとして支払うことになります。

一般的にはこの「為替ヘッジ」を利用して為替リスクを抑えるという投資信託がよく見られます。

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一方で、今回紹介する「通貨選択型ファンド」はそうした為替リスクを抑えるのではなく、さらに積極的にリスクをとることによって高収益を得ようというファンドになります。

通貨選択型ファンドは、低金利通貨売り、高金利通貨を買う

たとえば、日本円で運用されている債券(年利1%)があるとします。
この債券は円建てで運用されていますが、為替ヘッジを利用して、米ドルの為替予約を行います。円と米ドルとの間に2%の金利差があるとすると、その2%分がプレミアムとして支払われます。

結果としてこの通貨選択型ファンドは1%の債券利息収入に加えて、2%の為替予約による為替ヘッジプレミアムを受け取ることができ、合計年利3%での運用が可能となるのです。

金利差がもっと大きな通貨でヘッジ取引を行えばもっと収益性が高くなります。
こうした通貨選択型ファンドには「豪ドル」や「ブラジルレアル」「トルコリラ」などが選択される理由はこれらの通貨がいわゆる「高金利通貨」だからです。

通貨選択型ファンドにリスクは無いのか?

当然リスクはあります。
先ほどの例では、日本円で運用されているファンドであるにも関わらず、為替予約を行っているため、将来の為替レートと予約時の為替レートに差が生じる場合にはその差が損益として発生します。

たとえば、現在の為替レートが1ドル100円でその水準で1年後の為替予約を行っているとします。
このとき、為替レートが1ドル90円にまで円高となった場合、10%の損失(為替差損)が発生することになります。ただし、1ドルが110円になるというように円安となった場合は逆に10%の為替差益が生じることになります。

リスクはあるけど、リターンが高くなるという仕組みなわけで、通貨選択型ファンドというのは通常の運用リスクに為替リスクをプラスするという運用商品となるわけです。
リスクを二重取りする代わりにリターンも高めると言い換えることもできます。

金利差が縮小すると大きなリスク要因になる

こうした通貨選択型ファンドの注意点は「金利差」を収益の源泉の一つとしているため、この金利差が小さくなった時のリスクが大きいという点が挙げられます。

通常、為替レートは金利差を考慮した水準でレートが変動しています。
高金利通貨の方が収益性が高いということはありえません。その時点時点で考えると将来の為替レートの変動という形でつり合いが取れるようにして決まっているのです。

金利差が縮小すると、理論上は高金利通貨が売られ低金利通貨が買われます。
先ほどの円と米ドルの取引であれば、円高となるわけです。そのため、金利差の縮小が発生すると通貨プレミアムが小さくなるだけでなく、為替レートが不利な方向に動きやすいという状況となるのです。

リスクを本当に把握しているか?

こうした通貨選択型ファンドはかなり増えています。
また、さらに複雑化したファンドも年々増えてきています。このファンドは2階建て(投資対象+為替プレミアム)ですが、3階建(投資対象+為替プレミアム+原資産カバードコール)、4階建て(投資対象+為替プレミアム+原資産カバードコール+為替カバードコール)のような超複雑なファンドも多数登場しています。

こうしたファンドのリスクを投資家が本当に理解してるかは甚だ疑問です。投資の鉄則としてよくわからないものに投資をしないというのは金言です。

こうしたファンドを投資経験の浅い人に勧める銀行や証券会社の姿勢も問題があると思いますし、またファンドの名前を「○○プレミアムファンド」のように、プレミアムという言葉を一般的に「よいもの、特別なもの」と誤解させるような名称にしているのも問題ありそうな気がします。

複雑なファンドはより手数料(コスト)が高い

また、こうしたファンドの特徴としてプレミアム収入がある分、平常時の見た目の収益性が高くなります。そのため、ファンド販売者は「高い手数料をとっても分かりにくい」という判断をしており、こうしたファンドの手数料コストは極めて高く設定されています。

販売手数料が4%で年2%近くの信託報酬(運用経費)などがザラです。
投資信託は手数料が高いものほど良いのか?」にも書いていますが、手数料が高いファンドは決してよいものではありません。むしろ運用のリターンを大きく低下させる要因となります。

決してこのような仕組みのファンドが悪いとは言いませんが、少なくとも投資経験の浅い投資家に販売する商品ではないと思います。

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高山一郎
高山一郎です。株や投資に関する情報発信を始めて10年以上、投資歴は15年以上です。実際の経験に基づく役立つ投資やお金に関する情報を発信していきます。