株式投資

危険な株主優待銘柄のクロス取引(両建て)

株主優待銘柄のクロス取引というのは、現物でその会社の株を買い、信用取引でその会社の株を売ることです。こうすることで、配当落ち・優待落ちによる株価下落の影響を受けることなく、わずかな売買手数料だけで株主優待の権利だけを受け取ることができるという投資テクニックです。
しかしながら、この株主優待クロス取引は「あまりにも有名」になってしまったために実にリスクある投資に変わってしまいました。実際の事例を交えながら何が危険なのかを解説していきます。

株主優待が無料でもらえるクロス取引

まず、このクロス取引(両建て)がどんな取引なのか解説します。
クロス取引というのは、ある銘柄に対して同一の株数で同一の買い注文と売り注文(空売り)を同時に発注させて成立させることを指します。

株主優待は権利付き最終日の時点で株を保有していれば受け取ることができます。
その上、「配当金のように空売りをしている投資家が配当落調整額支払う必要がありません

 

そのため、権利付き最終日に現物を買い、同時に空売りをしておけば、配当金を受け取ることはできませんが(差し引きゼロ)、株主優待だけは受け取ることができるのです。(詳しくは「1日だけ株主になって株主優待だけをゲットする方法」などをご参照ください)

じゃあ、この投資法(優待銘柄クロス取引)というのは安全な投資なのかというと必ずしもそうではないんですね。今回説明するのがこの取引における重要な問題点です。

 

信用売り残増加による逆日歩発生リスク

そのリスクは、みなが同じように考えて空売りをすることで、信用売り残がつみあがることで、「逆日歩」が発生しやすくなるということです。逆日歩発生のメカニズムは簡単にいうと、空売りをする投資家が増えることで、空売りのための株券調達が難しくなり、その調達のために支払う費用のようなものです。

これは空売りをしている投資家が支払う必要があることすです。逆日歩って何?という方は「逆日歩とは」のページをご覧ください。

 

さて、株主優待クロス取引の存在は多くの投資家に知られています。そのため、人気の優待銘柄に対しては株主優待確保を目的にクロス取引が入りやすい状況となっています。

この逆日歩については、わずかな逆日歩であれば問題ないのですが、場合によっては極端な株不足となり、それゆえ超高額な逆日歩が発生するようなケースが続出しております。下記は株主優待目的でクロス取引を行って痛い目を見たケースです。

 

7647:音通の3000円相当の株主優待クロス取引

2012年9月期の株主優待銘柄の「音通」です。こちらは3000円相当の株主優待を提供しているのですが、株主優待クロス取引が集中。株主優待最低株数5000株で換算すると結果的に9万円もの高額な逆日歩が発生した計算になります。
3000円の株主優待ために9万円の逆日歩を支払わなければならないというまさに伝説級の逆日歩発生時案です。
ちなみに、同社の株価は15円という超低位株。この15円の株価に対して1株当たり18円の逆日歩となります。この逆日歩による損失を株価上昇で取り戻そうと思っても株価が2倍になっても取り戻せないわけです。

 

9681:東京ドームの株主優待クロス取引

2012年2月の株主優待銘柄の東京ドームの悲劇です。こちらも株主優待としては人気の銘柄でした。ここの逆日歩は株価200円に対して6円と高額でした(前述の音通には劣りますが)。
東京ドームが悲劇的とされるのは、株主優待としてのハードルの高さが挙げられます。もっとも人気が高いと思われる指定席A席の場合6万株なので、これをクロス取引でタダ取りしようとした人は36万円もの逆日歩を支払う羽目となったわけです。

 

一般信用やCFDを使った抜け道も

上記のように株主優待銘柄のクロス取引には高額逆日歩というリスクがあります。たとえ、おこる確率はそこまで高くなくても、微々たる差益を狙う優待クロス取引の場合、一回の高額逆日歩がすべてをパーにしてしまうリスクがあるのです。

もっとも、逆日歩が発生しない「一般信用取引」や「CFD取引」を活用した優待クロス取引も可能ではありますが下記のような問題もあります。

・一般信用で空売り可能な優待銘柄は少なく、可能な証券会社が少ない。また、取引手数料が高額となるケースもあり、うまみが少ない。>>一般信用取引で株主優待クロス取引

・CFDの場合、取引価格(売買価格)が証券取引所で売買されている金額と乖離が生じやすいため、確実なクロス取引とはならない。>>CFD取引で株主優待クロス取引

 

いずれの場合も逆日歩のリスクはありませんが、手数料が高いなどコスト的に魅力が薄かったり、目当ての株式(優待銘柄)が空売りに対応していない(在庫不足)などの問題もあります。

また、CFDの場合は現物との取引価格が異なるため完全なクロスができない可能性があります。

 

ただし、株主優待だけをタダでゲットしようと安易な考えで現物買い+信用取引(空売り)をするというのは、高額逆日歩のリスクがあり危険です。思わぬ高値掴みをする可能性があります。

このようなリスクを避けるというのであればこれらの方法を採用するほうが良いかと思います。
あるいは、そんな変則的な手段を取るのではなく、普通に現物株を買って優待を受け取るという方法の方がいいかもしれません。

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高山一郎
高山一郎です。株や投資に関する情報発信を始めて10年以上、投資歴は15年以上です。実際の経験に基づく役立つ投資やお金に関する情報を発信していきます。