投資家が保有する現物株式を証券会社に預けることによって貸株料(貸株金利)を受け取ることができる貸株サービスは保有株の配当金+αのインカムゲインとして魅力的なサービスです。もともとは大株主向けのサービスだったものがネット証券によって弱小個人投資家も利用できるようになって素晴らしいことだと思います。
その一方で、貸株サービスにおける注意点の一つに「税金の二重課税問題」と「配当金の損益通算ができない問題」があることを指摘しておきたいと思います。今回はそんな貸株サービスのリスクとその回避方法を紹介していきます。
もくじ
貸株サービスにおける貸株金利と配当金相当額は「雑所得」
貸株サービスを利用しているときに受け取る貸株金利と配当金相当額は雑所得という所得分類となります。
貸株金利
・・・貸株をしていることで受け取るレンタル料。証券会社や銘柄によって異なるが、年率換算で0.1~10%程度
配当金相当額
・・・貸株期間中に配当金の権利確定日をまたいだ場合、配当金は投資家にではなく、名義上の株主である証券会社に対して支払われます。そのため、その支払われる配当金相当額が貸株サービス利用者に対して支払われます。なお、配当金の源泉徴収分は差し引かれて入金されます。
貸株金利(貸株料)が所得扱いとなる点についてはわかります。投資家から見れば無から生まれた新しい収益だからです。一方で「配当金相当額」については納得がいきません。
そもそも、配当金としては受け取れば源泉徴収分(20%+復興特別所得税)が差し引かれた金額が入金され、それで課税関係は終了となります(配当控除を選択する場合は別)。
一方で、配当金相当額として受け取った場合は源泉徴収分(20%+復興特別所得税)が差し引かれたうえ、その差し引かれた金額が「雑所得」として課税対象の所得として扱われてしまいます。
問題その1)二重課税になる
仮に年間に1000万円の株に投資をしており、年50万円の配当を受け取っている人がいるとします。
貸株サービスを利用した場合、配当金相当額として50万円から20%の源泉徴収相当額を差し引いた40万円が入金されます。
この40万円は雑所得として扱われます。翌年には所得として確定申告する必要があります。そして最低でも15%~60%(所得税+住民税。税率は所得によって異なる)もの税金が課せられます。
結果として、最終的に受け取れる金額は16万円~34万円になってしまいます。
税の二重課税によって、結果的に大きなダメージを受けることになります。ちなみに、サラリーマンをしている方は年間20万円以下の所得については申告不要とする制度があります。
ただし、申告不要制度は所得税上の制度であり、住民税にはその規定がないため、市役所などで住民税分(10%)は申告する必要があります。また、別件で確定申告をする場合には上記雑所得も併せて申告しなければなりません。
問題その2)配当所得として扱われないので損益通算もできない
配当所得は、株の譲渡損益との間で損益通算ができます。
たとえば、年間で株の売買で20万円の損失が出ており、配当金として50万円を受け取っているというケースでは配当金と譲渡損失を損益通算でき、年間の所得を30万円とすることができます。
この場合、50万円の配当金に対する税金10万円(税率20%)と、損益通算後の30万円になったときの税金6万円(同20%)との差額である4万円は還付されます。
ただし、配当金を配当金相当額(雑所得)として受け取った場合には損益通算の対象とすることができません。
問題を回避するための方法
この問題を回避するには配当金を「配当金相当額」としてではなく「配当金」として受け取ることができれば解決できます。
配当金相当額となるのは、配当金の権利が確定した段階で株式の名義が証券会社名義となっているからです。そのため、そのタイミングで一時的に名義を自分に戻してしまえばOKということになります。
1)株主優待がある会社の場合は「優待自動取得で対応可能」
現在貸株サービスを提供しているネット証券はすべて「株主優待の自動取得」とういサービスを提供しています。これは優待企業の株主優待を受け取るために権利確定日に名義を個人名義に一旦戻してくれるというものです。配当金と株主優待のタイミングは重複しているため、これが利用できる会社は解決です。
ただし、株主優待の自動取得は株主優待情報に基づいて行われるため、株主優待を実施していない企業のほか、年2回配当で優待は年1回のみという会社の場合は対応できません。
2)自分自身で返却手続きをする
こちらが確実な方法です。権利確定日に株主となるために株式の返却手続きを行うというものです。
各証券会社ともに、権利付き最終日の営業時間内までに返却指示を行えば権利確定日に株主として登録されるようです。
たとえば、SBI証券の場合「権利付き最終日の15時40分までに返却指示」をすれば確定日に株主として登録されるようです。
マネックス証券は配当取りサービスを提供中
ちなみに、貸株サービスを提供している証券会社の中で唯一マネックス証券については貸株サービスを利用している人向けに配当金を自動取得するサービスを提供しています。
ただし、その場合の貸し株金利は通常0.1%から0.05%へとダウンするようです。
貸株サービス自体は非常に魅力的だと思っていますが、その一方でこうしたデメリットについてはあまり周知されていないように思います。手動で解約するという方法はありますが、保有銘柄数が少ないならまだいいですが、多いと大変です。
どうしてもというのであれば、収益性は低下しますがマネックス証券の貸し株サービスを利用するというのも手ですね。
以上、貸株サービスの配当金相当額には二重課税問題と損益通算問題があるのでご注意というお話でした。